モリーオ市の博物局に勤めて居りました。
十八等官でした から役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわずかでしたが、
受持ちが標本の採集や整理で生れ付き好きなことでしたから、
わたくしは毎日ずいぶん愉快にはたらきました。
殊にそのころ、モリーオ市では競馬場を植物 園に拵え直すというので、
その景色のいいまわりにアカシヤを植え込んだ広い地面が、
切符売場や信号所の建物のついたまま、
わたくしどもの役所の方へま わって来たものですから、
わたくしはすぐ宿直という名前で月賦で買った小さな蓄音器と二十枚ばかりのレコードをもって、
その番小屋にひとり住むことに なりました。